インボイス制度導入!不動産オーナーが知るべき課税対象となる売上と抑えるべき対策

インボイス制度導入!不動産オーナーが知るべき課税対象となる売上と抑えるべき対策

「インボイス制度」で賃貸経営はどう変わる?
インボイス制度の正式名称は「適格請求書保存方式」。
いよいよ今秋よりこの制度が始まるのだが、事前の心構えはできているだろうか?
自身の賃貸経営にどのような影響があるのか、
また今後どうしていくべきかをいま一度おさらいしておこう。

構成・取材・文/馬場敦子 デザイン/久須美雅代

チャートでわかる!対策が必要なオーナーは?

賃貸経営でインボイスが影響する範囲

インボイス制度は消費税に関する制度変更なので、“消費税が課税される売上”つまり「課税売上」に対して影響を及ぼす。
基本的に、アパートやマンションなど居住用物件の家賃に消費税はかからないため、居住用物件のみを所有するオーナーが、インボイス制度の影響を受けることはない。
不動産賃貸業における代表的な収入のうち、“課税対象となるもの”と“課税対象外のもの”は下のように分類される。

課税対象となるもの

  • 店舗・事務所・倉庫の家賃、共益費
  • 賃貸期間1ヶ月未満の住宅の家賃・共益費
  • 太陽光発電の売電収入
  • アンテナ基地局の収入
  • 賃貸建物の売却金額
  • 駐車場の賃料 など

課税対象外のもの

  • 住宅用の家賃・共益費
  • 土地の賃料
  • 土地の売却金額

インボイスの発行には事業者登録が必要

消費税の納税額は、売上で預かった消費税額から仕入で支払った消費税額を差し引いた金額だ。この時、仕入分の消費税を差引くことを仕入税額控除という。
課税方式には右の2つがあり、簡易課税を選択できるのは基準期間(その事業年度の前々年)の課税売上高が5000万円以下の事業者に限定されている。
みなし仕入率は、一般的な課税仕入の割合よりも高めに設定されており、簡易課税が有利になるケースが多い。
しかし、多額な設備投資を行う事業年度に簡易課税を選択すると、消費税が還付できず、税負担が増えてしまう場合がある。
また、2年間の継続義務があるため、選択にあたっては2年先までの課税仕入に大きな変動がないか検討が必要だ。

課税方式

選択時の検討事項

  • 基準期間の課税売上高が5000万円以下か
  • みなし仕入率より実際の仕入率の方が大きいか
  • 課税仕入による消費課税還付があるか
  • 将来2年間の業務内容が大きく変動しないか選択時の検討事項
  • ※小規模事業者に対しては納税額が売上税額の2割に軽減される特例措置が3年間設けられる予定も考慮しよう

課税売り上げがありテナントも課税事業者の場合の対策

対策1 課税事業者となってインボイスに対応する

免税事業者のままではインボイスを発行できず、これまで通りに消費税を上乗せして家賃を請求すると、借主は消費税分を仕入税額控除できなくなってしまう。
しかし、オーナーがインボイス発行事業者として登録し、インボイスをテナントに交付できれば、テナントは仕入税額控除を受けられる。
オーナーは消費税納税の負担が発生することになるが、物件競争力を保つことができるというメリットを得られるだろう。

対策2 免税事業者のまま賃料減額を検討する

免税事業者のままこれまで通りに消費税を上乗せして家賃を請求すると、テナントは消費税分を仕入税額控除できないため、消費税相当額の減額を交渉される可能性が高くなる。
テナント側からの賃料減額交渉はある程度受け入れる必要があるだろう。
家賃減額で収入は減ってしまうが、インボイス発行事業者に登録しているオーナーの物件に移転され、テナントが減ることを防ぐことはできる。長期的な視野での選択が必要だ。

経過措置期間があるので選択は慎重に

免税事業者のままでいるか、課税事業者になるかは、テナントの動向や、今後の収入も含めた総合的な判断が必要となってくる。
インボイス制度の導入には経過措置があり、経過措置の間は消費税分をすべて減額しなくとも、控除の差額分のみ賃料減額するという対応を取っておける。今すぐに決めなくてもよいので、慎重に検討しよう。
図)カレンダー
インボイス制度への円滑な移行のため、10年間の経過措置期間を設けている

制度変更による今後の賃貸経営への懸念点

競争力の低下

テナントが課税事業者で、オーナーが免税事業者の場合、オーナーがインボイスを発行できないため、テナント側は家賃にかかる消費税の仕入税額を控除できない。
そのため、今後テナント側は「オーナーが課税事業者でインボイスを発行してもらえる物件」を優先して、店舗や事務所として選ぶ可能性が出てくる。
家賃が同じであっても、テナント側の実質的な負担額に差が出るため、オーナーが免税事業者の場合はライバル物件と比べて競争力が低下してしまうことになるだろう。

テナント収益の低下

オーナーが免税事業者でテナントが課税事業者の場合、制度導入後は消費税分を家賃から減額してほしいというテナントの要望が増えたり、インボイスを発行してもらえる物件に乗り換えられるケースが想定され、テナント収益が下がる要因となる。
また、これまで免税事業者であったオーナーがインボイスに対応するために課税事業者になると、免税事業者であるテナントが入居している物件に関しては減益になってしまう場合がある。
これは、これまで益税が発生していた場合、そのテナント分の収入が消費税の分だけ減るからだ。エリア・用途・業種によっては、制度導入後の賃料水準の動向に注意が必要だ。

節税効果の弱化

「法人化」は賃貸経営の定番の節税対策だろう。
法人化には、資産管理会社に不動産の所有権を移す方式があるが、資産管理会社に物件を売却せずに、オーナーが所有する不動産の管理を資産管理会社に委託して管理料を支払う方式もある。
これまではオーナーが消費税の課税事業者で資産管理会社が免税事業者の場合、管理料にかかる消費税についてオーナーは仕入税額控除ができる上、資産管理会社側の消費税納税義務もなかった。
しかし、今後は免税事業者である資産管理会社からインボイスが発行されないため、オーナーは仕入税額控除が受けられず、節税効果が薄まってしまうことになる。

買主が課税事業者の場合は物件売却の際にも影響

建物の売却価格には消費税が課税されるが、土地は非課税。免税事業者が不動産を売却した場合、建物分の消費税を納税する必要がないのがメリットだ。
しかし今後、免税事業者が不動産を売却する際にはインボイスを発行できないので、買主は建物分の消費税を仕入税額控除できなくなってしまう。
そうなると、買主が課税事業者の場合は、免税事業者からの不動産の購入に消極的になる可能性が考えられる。
ただし、買主が免税事業者や一般の個人の場合であれば、これまで通り取引に影響はない。
また、転売目的で不動産会社が物件を取得する場合には、特例的に仕入税額控除が可能だ。
しかしながら、免税事業者が収益物件を売却する際には、今後、購入者層がやや薄くなってしまう可能性が出てきそうだ。
図)ゴール

著者情報

賃貸住宅サービス

賃貸住宅サービス住まいのお役立ち情報編集部 株式会社グラート

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